番組の流れを確認しようと台本を開いた時だった。かさりと封筒が落ちる。そんなものを挟んでおいた覚えのないトキヤは、それでも台本から落ちたところをしっかりと見ていたので疑問に思いながら拾い上げると封筒に書かれた文字を見て目を細めた。

「一ノ瀬トキヤ様」


これは彼の字だ。



***

「ごめんトキヤ!6日仕事入っちゃった」
「はい、頑張ってきてください」

ぱぁんと目の前で手を合わせてごめん!と言った音也にトキヤはゆるく笑いながらしょぼくれた頭を撫でた。6日はトキヤの誕生日で、学園で知り合ってからこの日に至るまで毎年欠かさず(二人きりではないにしろ)音也はそれを祝った。顔をかたどった奇怪なケーキに、ハムケーキ、そういうものが続いたため、8月になるとこの男が今年は何をしでかすのかと怖いような嬉しいような気持ちで当日を待つ。トキヤにとって連続した一日でしかなかった誕生日が特別になったのも、音也の影響だった。

「前日…はまた別の仕事あるけど、帰ってきてから祝うから!」
「気持ちだけで十分です、それに私も当日は仕事で遅くにしかかえってこれませんから」
「…メールする!」
「はい、待っていますね」


そう送り出したのが昨日のこと。いつの間に仕込んでいたんだろう。まだ本番までに時間があることを確認して封を切る。メールや電話、時にはメモを残されることがあっても流石に文通はしたことがない。


「一ノ瀬トキヤ様

トキヤへ。

これをちゃんと見つけてもらえたかなぁ。読んでもらえてたらいいな。今仕事中?
お誕生日おめでとう。どうやったら祝えるかなとかいろいろ考えたんだけど、手紙にすることにしました。今ドキドキしながらこれ書いてる。手紙ってなんか照れるよな、なんでだろ。
生まれた日って考えると俺はすごくうれしくなる。トキヤが」

その後の文章は何度も悩んで書き換えたのかボールペンでぐりぐりと消されていた。
(人に当てる文章なら下書きくらいしなさい)
そう小言を思い浮かべても、不快な気持ちは沸いてこなかった、むしろ可愛らしいとさえ思ってしまう。

「――トキヤが生まれて、子役とかやってHAYATOになって歌うたって、同室になって、ライバルで恋人になって、そういうの全部含めて嬉しいんだ。あんまり難しいこと口じゃ言えないからここで言おうと思ったんだけどやっぱりうまく書けなかった。いっぱい間違えてごめん。
もっかい言うね、お誕生日おめでとう。
大好き。
あーキスしたいな。すごくしたい。帰ったら遅くなったけどお祝いして、いっぱいちゅーしよ!
…こんなこと書いてたらいつまでたっても手紙終わらないや。これかいてる時さ、トキヤと喋ってるみたいな気がして楽しいんだ。じゃあ俺もそろそろ準備をするね。今日のトキヤの仕事がうまくいきますように!

貴方の音也より(なんちゃって!)」


文章の締めくくりには彼お得意のキャラクターがかかれている。口元が数字で表されていてつん、と差し出された唇の形に似ている。周りにハートが飛んでいるから、これは文章でいうところの「いっぱいちゅーしよ」を表しているのだろうか。
トキヤは何もかもが愛しくなって手紙をそっとなでる。
こんな嬉しい誕生日プレゼントはもらったことがない


「かえったら、たくさんキスしましょう」

音也の変わり、にするには単純な線で出来ているけれど愛しい彼の書いた可愛らしいキャラクターにちゅ、と小さく口づけた。

「これは、あなたのトキヤから、のキスです。…何を言ってるんでしょうね」




Happy birthday for Tokiya!2012/8/6