「猫のまねをして」 演技の練習だと思って。 「そんな演技必要ないでしょう」 「そうかもね、でもまっくろい猫みたいだから」 トキヤは猫の目を覗いたことがある?透き通ってて横から見るとすごく不思議に見える、ビー玉みたいなんだよ。近づくとすぐ逃げちゃう警戒心とプライドの高さがお前に似てる。 「俺だけに甘える猫、どう?」 それなのに飼い主にはさ、まるで当然って顔をして時々くっついてくるでしょう。 いまいち乗り気じゃないトキヤのために俺が一肌脱いであげる、トキヤの喉仏から顎に至る柔らかいところを人差し指でするりと撫でてやった。 「鳴いて」 観念した彼が小さく口を開くと声帯の振動が指に伝わる、ほんのわずか聞こえる甘い声で。 「にゃぁ」 * ゴールデンレトリバーの子供が飼い主の顔をすごい勢いで舐める映像はすごく可愛かった。犬とか猫ってどうしてあんなに可愛いんだろう。さすがにあんな風にはできないけどトキヤのほっぺにちゅーしたりときどき舐めてみたりする。 俺は今、トキヤに飼われる犬なのだ。 「こら、音也、やめなさい」 (やだよー) 俺の顔を押しのける掌にも舌を這わす。 「躾がなってませんね…。お手、はできますか」 (うん) 「いいこ」 尻尾がないのは残念。 気持ち的には千切れんばかりに振っていたい。だって俺トキヤに撫でてもらうの好きなんだ。いつもの優しい感じじゃなくて本当の犬にやるみたいなわしわし、っていうやり方をするから髪がぐしゃぐしゃだ。 「…首輪をつけてつないでおきたいですね」 (いいよ) 「冗談ですよ。音也、そろそろ声が聞きたい」 (なーんだ) トキヤの犬だったら、きっと随分かわいがってくれて俺もご主人様であるトキヤが大好きで愛に満ち溢れた音也犬(雑種)の一生?みたいになると思うのに。 「わん、わん」 「いつまで続けるつもりですか?」 「今のさ、トキヤ、大好き、っていう意味」 なんてことない休日に. |