たったひとつのキスをこの先ずっと黙っていようと思う。 勢いよく扉を開けても声が返ってこなくて見ればレンは眠っていた。上下する毛布までひっそりと近寄って、聞いてしまった。正確には言葉として聞こえたわけじゃない。だけどなんとなく、レンが呼んだ人が誰なのかわかったんだ。胎児のように丸くなる彼の、長い前髪に隠れた目から静かにひと雫だけ落ちた涙の意味も。 それを見たらどうしようもなくなって、寂しいよねって思ったら、眠るレンのこめかみに唇を寄せてた。衝動だったと思う。それはトキヤとするキスとは全然違うものだけど、男が男にするものでもないっていうのは、わかる。 夢を見て泣いてた彼にしてしまったキスのことも、その時抱いた感情のことも、俺はずっと誰にも言わないまま宝物みたいに大事にして、一生忘れない。 |