*トキヤが20歳音也が19歳の捏造設定



二十歳になってからトキヤはお酒をたしなむようになった。カクテルっていうのは簡単なやつなら自分でつくれるものらしく、材料となるアルコールの瓶が部屋に少しずつ増えている。それで、アルコールの入ったトキヤっていうのはめちゃくちゃ格好いい。男の俺から見ても「整った男前」だなって思うし、少し赤い目元は色っぽい。


「また飲んでる」

ぽたぽた落ちる水滴をタオルに吸い取らせながらリビングの戸を開けると先に風呂から上がったトキヤは見覚えのあるグラスを傾けていた。苦いコーヒーだって彼が飲んでいると美味しそうにみえるのに未知の液体はなおさら。でもトキヤは絶対に飲ませてくれない、これまで一度も。
「俺にも一口」
「だめです未成年でしょう」
「トキヤしかみてないのに」
「妥協はしたくないですね」
「じゃあ俺がいるときばっかり飲むのやめてよ」

ふぅん、とかつて彼が演じていたお調子者の、あのキャラクターが面白いものをみつけた時の様に口端をあげる。意地悪そうにみえるのは彼が天真爛漫なHAYATOじゃなくてトキヤのままだからだ。


バランスを崩した氷の音とグラスが置かれた音が重なる。

「音也は飲んだことがないと言っていましたが、一度も?」
「ないよ。見つかったら面倒だったしデビューしてからは厳しいし」
「じゃあますますお預けですね」
「トキヤはさぁ、なんでそんなに楽しそうなの」
「髪がまだ濡れてますね、ちゃんと拭いてあげますからこっちに」
噛み合ってない。

もうそんなに酔っちゃったの?呼ばれるままとなりに腰を下ろすと首にかけていたタオルでわしわしとされる。時折拭くのとは別に指先に力を込められて、それが気持ちいい。いつからこんなサービスがついてきたんだっけ。もう結構前のはずだ。ご機嫌なトキヤはさらに鼻歌まで歌いだす。
「下らない理由ですよ」
その合間に答えるから、それすら歌の一部のように聞こえた。

(話す気はあるのかな)



「私がお酒を飲んでいると、音也はいつも、
トキヤかっこいいなぁトキヤ大人だなぁって顔をするでしょう」
「し、してない」
「してますよ。ふふ、そうやって私を見る音也が、ははっ、とても気分が良いです」
「そんな理由…」
「だからくだらないと言ったでしょう?どうせあと少しじゃないですか。優越感に浸らせてください。
貴方が年下で、私が年上だって、そういうの楽しいです。
ああ、もっとそういう目で見てくださっても構いませんよ?」
「トキヤ大人でかっこいい、って?」
「ええ」
「そんなトキヤは子供っぽいよ」
「残念」

そういって、…そう言った、と認識したときにはタオルを引っ張られて距離が縮まる。狭まった視界の中で近すぎてピントが合わない、ぼんやりと映るのがトキヤだなぁと悠長にとらえていたら舌が入り込んできた。またこの流れかぁ。
お酒を飲んだトキヤはいつもより陽気でくつくつと笑いながら、いつもよりしたがる。
しつこいし意地悪なこと言われるけど、本心ではいやじゃない。
「…っん」
「ふ、貴方が、成人したら、お祝いにお酒でも贈りましょうか。沢山飲んで、たくさんセックスしましょう。
きっと、ふふ、とろとろで気持ちがいいですよ。それまでお預けです」
「髪拭いてくれたのトキヤなのに、またシャワーが必要なことすんの?」
「いいじゃないですか」

のしかかられて沈む瞬間にテーブルに置かれた液体が目に入る。きっと氷は解けて薄まってしまうだろう。
あれとこれは同じ味がするんだろうか。
トキヤが飲ませてくれないから俺はアルコールの味を知らない。
トキヤの口から伝わってくる熱い舌とこの味しか、しらない。

「お酒と肴があって、いたれりつくせりですね」
「酒の肴はあんまりだよ」
「不服ですか?では、メインで」

見上げたトキヤはいまから俺を食べちゃうんだって雄の顔をしている。彼の言葉通りで悔しいけど、やっぱり。

(…この人かっこいいよなぁ)



今でさえこうなのにトキヤの言うようにお酒飲んだらどうなるんだろ。
そのときは「音也も様になってますね」とか言ってくれたらいいな。
未知への不安と同じくらいの期待でじわじわと熱をあげながら、とりあえず今をどうにかしてほしくてぎゅうと抱き着いた。