*HAYA音←トキヤ(トキヤ報われない注意)



HAYATOはいつでもトキヤと同じものを欲しがった。玩具もお菓子も友人も夢も。
トキヤが手にするたび僕も欲しいというのだ。


「あ、ごめんね、音也くんもらっちゃった」

ソファに座ってニュースをみていたHAYATOが思い出したようにそう言った時、またか。と思った。誰にも言っていないはずなのになぜ兄は気付いたのだろう、同室であったころから、同性である彼に自分が抱いていた気持ちなど。

「でも仕方ないよね。彼が僕を好きだっていうんだもん」
「…あなたが、音也を好きだなんて初耳ですよ」

二人が顔を合わせることはあるだろう、最近はプライベートでも仲良くしていると、日々の生活が筒抜けなくらいうるさい音也から聞いてはいた。けれども恋の話などした覚えはない。…いや、最近彼は変に言いよどむことがあった。あれはこのこと切り出そうとしていたのかもしれない。自分の知らないところで二人が付き合うに至った経緯など考えたくもなかったが、

「違うよ?トキヤが音也くんを好きだから、欲しいなって思っただけ」

僕は女の子の方が好きだにゃー!
クッションを抱いてテレビに出ている時のままにかわいらしく、残酷なことを口にする。その言葉が意味することを理解するまでに少し時間がかかった。

「なん…」
「簡単だったよ?もともと僕のファンではいてくれたみたいだし。悩んだりもしたみたいだけどそれも可愛い抵抗だよね!」
「あなたは!」

張り上げた声は怒りで掠れる、握った拳は震えていた。
殴りかかってしまいたい、その笑っている顔に思い切り。

けれどトキヤは衝動のまま動くことはしなかった。彼のためを思ったのではない、彼を思う彼を想った。きっと「どうしたの?」と心配そうに言うだろうから。
音也がHAYATOに好きだといったなら、その気持ちはただまっすぐに本当なのだと思う。彼が、それが誰であれ好きだというのなら自分の都合を捨てて痛む胸をおさえても幸せになってほしい。本当にまっすぐな人なのだ。そこに憧れ恋をした。
なのにHAYATOはなんと言った?自分が音也を好きだから?簡単だった?


「…っ、そんな理由で」
「怖いよトキヤ、それにそんな理由なんて言わないでほしいにゃー?」

トキヤの怒りなど気にも留めないで猫のように目を細める姿は、むしろ喜んでいるようにも見える。ふふふーと場にそぐわない思案の声を上げて、ああそうだ、ねぇ、いいこと考えた!きらきらと目を光らせて言う彼にぞっとずる。

「トキヤが音也君を好きじゃなくなったら、音也君トキヤに返してあげようか?あ、でも音也くんがトキヤを好きになるかどうかは別問題だけどー…きっとトキヤなら大丈夫だよ!頑張り屋さんだもん!」

いいこ、触れてくる掌に嫌悪感がわく、その腕に包まれて、世界がゆっくり閉じていく。いつもいつも自分と同じものを欲しがるこの片割れに、いったいこれからいくつ奪われていくのだろう。またか、と思った。またか、と。そうやって慣れてきたつもりだった。

音也。



「僕はね、トキヤの欲しいものが全部欲しい。だってトキヤが大好きなんだから!」