*HAYATOに片思い音也




それは端から見たら小さな変化でしかなかった。
来栖翔が、音也との会話でHAYATOが話に上らないことを少し変だなと首をかしげたくらいで。



音也はHAYATOのファンで、学園にいた頃はよく話を聞かされた。HAYATOの出ているドラマは何度も見せられて最後には台詞を覚え、真似て遊んだこともある。特集を録画する音也にお前本当にHAYATOが好きだなとからかえばだってかっこいいじゃんと屈託なく笑った。
まぁでも、そんなものかと思う。
アイドルの追っかけなんていつ終わるかわからないし、今は同じ世界にいる音也はHAYATOと共演することもあるのだから憧れよりライバル心が勝ったとしても不思議ではない。




そんな翔の考えに反して音也は部屋で一人、ため息をついていた。


HAYATOを含むお馴染みのメンバーとの撮りが終わったあと、誰もいない楽屋で胸の痛みに耐えるように壁に寄りかかった。

「よかった、今日も普通に出来た」
自覚をしてからもうずいぶんと立つ。
楽しかっただけの片思いはいつの間にか痛みを伴うようになって。

「あーもうなんでかなぁ」


頭を抱えずるずると座り込む。
初めて会ったときはまだ純粋な憧れしか持っていなかったのにそれがいつからだろう、恋情に変わったのは。



はやと。
声に出さず口をひらく。

同性に恋をしたことをうけ入れることはどこか博愛主義な音也には容易で、そういうこともあるだろうと気軽に構えていた。それよりも彼と接するたびに感じるくすぐったい喜びの方が嬉しかったから。仕事が軌道にのり彼と会う機会が増えて嫉妬や独占欲を感じはじめても恋の一部だと思えば幸せだった。


けれど永遠に叶わない。



HAYATOはトキヤだから。

(トキヤが打ち明けてくれたの嬉しかったよ。俺のこと信頼してくれているんだって。
だからもうやめようと思ったのに、全然うまくいかないよ)


音也には好きな人も好きなこともたくさんあった。
その中でどうしてか、HAYATOだけが特別だった。



泣きそうになる自分を叱咤して頬をぴしゃりとたたく
もうすぐトキヤがやって来るはずだ。今日はもうHAYATOはいない。

じゃあどこにいるんだろう。


ブラウン管越しに眺めていた昔と違ってHAYATOであるとき彼はちゃんと音也のそばにいた。
笑いかけて、冗談を言って、触れて、HAYATOと呼べば振り返ってくれた。
でもそれはメディアが回っている一瞬のことで
特にトキヤが音也に打ち明けてからは、二人になるとHAYATOはもうどこにもいなかった。 
そんな現実が切なかった。
トキヤのことだって好きだけど、トキヤとHAYATOは違うから。




ざわざわと近づいてくる人の気配に音也は立ち上がる。
大切な友人を労うためにいつものように笑っていなければ。

「お疲れ様、トキヤ!」