感情が暴走して身体が勝手に動いて
理性が効かない、それが恋という衝動だろう。

だから音也はその時、先のことなんて何も考えていなかった。


「俺HAYATOが好きだよ」






もう限界だったんだと思う。HAYATOのこととトキヤのことと、
俺の頭は一杯で口に出してしまえば終わるんだって勝手だけどそう思った。


「…HAYATOが好きだよ、ずっとずっと好きだったんだよ」

すきだったんだよ。

言葉と同時にあふれた涙が世界をにじませてせっかく気持ちを伝えているのにHAYATOの表情が見えない。
かっこ悪いなぁ。拭ってもだめで、もうあきらめてそのままにしておく。
きっとこの体だって伝えたいんだ。
どれだけ彼のことを好きだったのか。



「…泣かないでほしいにゃー」

小さな沈黙の後、場にそぐわない語尾をそのままにいつものHAYATOがそう言って、
彼の指が俺の頬に触れた。
「こんな時までにゃーっていうんだね」
おかしくて、嬉しくて、泣いてるのに笑ってしまう。
いつもそうだ。HAYATOといるとなんだか心があったかくなって自然と口元が緩む。

「音也くんは笑顔のほうが似合うから」
「それは、HAYATOの方だよ」
「ありがとう」

ようやく鮮明になりつつある視界にHAYATOがうつる。
胸が痛いのは俺だけのはずなのに、彼も辛そうだった。額がくっつくほど近くでHAYATOが俺を覗き込む。
掌は頬を包んで、こんな距離で彼を感じたのは初めてのことだった。
長い睫に縁どられた深い藍色。

「だけど、ごめんね」

柔らかく鼓膜を揺らす声も
俺の大好きな彼の一部。


「僕には好きな人がいるから君の想いを受け入れることはできない」


優しい嘘だと思った。
HAYATOがHAYATOとして誰かを好きになるなんてありえない。

「でも音也くんが僕を好きでいてくれて本当に嬉しい」
これは、どうだろう。嘘なのかな。嘘じゃなかったらいいな。
「ううん、俺の方こそごめん」
「音也くんが謝る必要はないよ」

結末は初めから一つしかなかった。
俺は本当にたくさんのどうしようもない、たとえば俺じゃ駄目って知ってたよ、とか
その好きな人ってだれなの、とかどうしてもHAYATOがいいんだよ、とかHAYATOが好きだよ、とか
そういう言葉を飲み込んで頷いた。長い片想いの終りだった。
HAYATOには好きな女の子がいて、俺では到底叶わないから
今じゃないけどいつか諦められる。HAYATOが優しく振ってくれたから思い続けるよりずっと簡単に綺麗な思い出にしてしまえる。



だからこれは女々しい俺の我儘。


「HAYATO、一つだけお願い聞いてくれる?」

にゃんでもきくよ、そういって首をかしげたHAYATOに告げると彼は笑って腕を広げた。
背に腕を回すときつく抱きしめてくれる。彼の体温と匂いに包まれて俺はもういろいろな感情が一緒になって何も言えない。
好きだ好きだ好きだ。
繰り返す心の声と泣きすぎたせいで頭が痛んだ。これで最後だから一生忘れないように刻み込む。
子どもみたいにしがみついた俺をよしよしとあやす掌もすぐ近くでとくとくとなる心臓の音も
記憶力の悪い俺だけど今のHAYATOのいっこだって零したくなかった。




その日、音也が腕の中でうとうとし始めてもHAYATOはそのまま抱きしめ続け
本格的に眠りそうになった彼の膝の力が抜けて倒れそうになったあたりで
おやすみとまたねを言ったので音也は同じようにおやすみとまたね返して
少しだけ泣いて、精一杯笑ってみせた。