*雑誌フリーセルに掲載された音也が撮影した写真が元ネタです。




「コースター?トキヤ使うの?」
「馬鹿ですかあなたもですよ。むしろあなたのためです。
カップの底が濡れているのにテーブルに置いたりするじゃないですか」
「そうだっけ?ごめん、そこまで見ていない」

はーとため息をついたトキヤは、布だったりプラスチックで出来ている面積の小さいそれをひとつひとつ物色している。食器や日常雑貨が並べてある空間では女性の方が多く、俺たち二人はなんとなく浮いているような気がしたけどトキヤは気にしていないようだった。
アメリカのドラマで見られるような蛍光色のピンクや緑のお皿やおもちゃみたいな調理器具があったかと思えば、いかにもその道何十年のプロが作りましたと言うような純日本風のお茶碗があったりする。
早乙女学園は初めから必要な器具はほとんど揃っていたし、俺はこだわりもないからたいていのものは100均とか、そういうもので済ませてしまうけど、いろいろな商品を見るのは楽しい。
「ずっと気になっていたので思い出せてよかったです。音也これはどうですか?」
「ちょっと渋すぎない?もうちょっと、ほらこれとか」
「却下です、柄が騒がしすぎる」
「うーん」
「ではこちらは?」
「いいじゃん!シンプルだけどかっこいい!」
トキヤが提案したのは黒と白の2パターンある四角くて特に模様もないコースターだった。
でもサイズとか色の感じとか、何より市松模様を模して置かれている様がかっこよくて、俺も一目で気に入った。
「トキヤは黒が良いよね。いつも使ってるカップ白いし。そしたら俺は白にしようかなぁ」
「翔や聖川さんたちが遊びに来た時のために2色ずつ二つ買っていきましょう」
「はーい」
言葉通りに白と黒二つずつ買い物かごにいれるトキヤの後ろをついていく。
「俺が買おうか?俺の置き方が気になったんだよね?あ、トキヤ見てみて!豚の蓋だってかわいい!」
「いいですよ、どうせ二人で使うんですから。それと落し蓋はあるので買いませんよ」
「いますごくきゅんてした」
「そうですか」

 

だって新婚さんみたいだ。
 

ここに置かれている食器はたいてい寒色と暖色の二色があってお茶碗なんかはサイズも違う。
箸置きや湯飲みに至るまでどれもが「二人で暮らすワンセット」という顔をしているんだから。
そこでトキヤが「どうせ二人で使う」なんていう。
もちろん同じ部屋で暮らしているんだからそうだけど、俺たちは恋人同士なわけで、トキヤそこのところちゃんとわかってるのかなぁ。
俺が嬉しいって思う気持ち、わかってくれるかなぁ。
「カップルカップとかあるよ。腕組んでる。調味料入れキスしてる」
わかってほしくて、そんな風にわかりやすいものを挙げてみる。
「すでにあるものを購入するのは感心しませんね」
「そうじゃなくてさ」
「――揃いの指輪の方が先じゃないですか?」


(何を、)
いってるんだよ!って言おうとしたけど頬が熱くなってそれどころじゃない。悔しい、トキヤは、ほんとうに、ずるい。そんな俺を見て悪戯が成功した子供みたいに肩を震わせてふふふと笑った。
からかわれたような気がするけどトキヤは冗談は言わないから、おんなじこと考えてたんだ。
まだ残る頬の熱を手の甲で感じながら、やっぱりうれしくて、つられるように笑ってしまった。






 

カメラを構えて切り取った、この光景には思い出がつまっている。
俺の赤いカップとトキヤの白いカップは出会う前から使っていたもので寮生活になるからと持ってきた、形も似てないし素材も違う。そこに注がれるコーヒーはトキヤがブラック、俺の分にはいつの間にか自然と牛乳を入れてくれるようになった。一緒に買ったコースターはおんなじ形の色違い。出会う前と、出会ってからの、それから当たり前になったこと。
生活を共にして、生活の一部になったこと。
 
雑誌掲載用に頼まれた写真に俺はすぐにこれをとろうって決めた。
デジカメの画面で撮った画像を確認して、良い写真がとれたと満足する。
「幸せを切り取ったらこんなかんじ?」
「音也にしてはまともなことをいいますね」
「なんだよもー。さて、写真も撮ったしコーヒー飲もうよ」
「そうですね」
いつものように向い合せて座って、カップを両手でつかむとまだ湯気の出ているコーヒーの熱がつたわって掌がじんわり暖かい。
ふうと息を吹きかけて冷ましているとその先で目があった。
なんとなくわかるけど、トキヤの口からききたい。
 
「言ってよ」
「…これからもこうやって音也と時間を共有しないなと考えていました」
「俺もトキヤとずっとこうしてたいって考えてた」
「おんなじですね」
「うん」

これからもきっと、いろんな形の「トキヤといっしょ」が増えていくんだろうね。

 


『happy break time』 -photo by OTOYA





photo by Tokiya